誰にでも、「プライベート」な領域と、「パブリック」な領域があると思うのだが、両者の境界線をどこで引くかは、人によって違う。でも、日米の両方で暮らしてみて、個人差よりも、やはり日米間の差の方がはるかに大きいと感じている。
言うまでもなく(?)、アメリカの方が、「プライベート・ゾーン」は大きい。 たとえば、人の年齢、家族構成、勤め先、出身校などは、ある程度親しくならないと聞かない。(うんと親しくなっても聞かないケースもある。)でも、日本人はすぐに相手のバックグラウンドを把握しようとする。(特に年齢。何かで読んだのだが、日本人は、相手の年齢によって態度を変える傾向があるため、相手が自分よりも年長か年少かをただちに見極めないと落ち着かないのだそうだ。) 私は日本人だけれど、多分にアメリカナイズされてきているため、この「プライベート・ゾーン」の違いに、最近はおおいに戸惑うようになってきた。日本のお母さんたちがネットで話題にしていることを読むと、びっくりしてしまうことも多い。 今日読んで目が点になったのは、首都圏の某公立小学校の生活科の授業で、「すてきな自分を知ってほしい」という主旨の下、それぞれの子供の親に、子供に対する気持ちを手紙に書けという課題を出したそうだ。具体的には、子供を授かったときの気持ち、お腹で育んでいたときの気持ちなどを書けということで、その後それらの手紙をクラスの前で先生が読み上げることになっていたらしい。これに違和感を感じて話題にした人がいる一方で、「何が問題なのかも分からない」と答えている人も多数いて、驚愕した。 このような授業、アメリカではまずありえないのではないか? 当然ながら、子供の生い立ちは多様である。もちろん、どの子も「すてき」なのだが、それを知らしめるために、家庭に土足で踏み込むような宿題を出す日本の学校の無邪気さに、心底驚いた。 この宿題、もしも息子がかつて通っていたNYの公立小学校で出したとしたら・・・ 異議を申し立てる親は一人や二人ではないと思う。それでも課題を提出せよと言われたら、きっと少なくとも半分の親は出さないのではないだろうか。 片親しかいない子もいるし、両親不在で祖父母に育てられている子もいる。両親が離婚して、ステップペアレントに育てられている子もいる。国外から養子にもらわれてきた子もいれば、両親がゲイのカップルである子もいる。代理母から生まれた子もいる。両親がそろっていても、関係がよくない子もいる。こうした様々なバックグラウンドを持つ子供たちに、一様に「お母さんに、あなたを授かったときの気持ちを手紙に書いてもらいなさい」という課題を出すなど、まず思いもよらない。逆にそれだけ日本社会はいまだに均質で、バライエティが少ないということなのだろうか?この課題が前提とするナイーブな家族像には、めまいがするほどだ。 また、仮にうちのように幸い子供を望んで授かり、毎日彼らの存在に感謝する日々を送っている家庭であっても、そんな気持ちを手紙に書けと言われたら、嫌である。はっきり言って、"none of your business"である。子供への思いは極めてプライベートなもので、そもそも学校に強制されて書くものではないし、学校というパブリックな場で読み上げるなどという安っぽいこともしてほしくない。自分の気が向いたときに話したいし、当然ながら、話す必要がないと思う人がいてもいいわけだ。 だいたい、「生活科」の授業で、「すてきな自分を知ろう」と呼びかけるというのは、一体どういうことなのか?それこそ、余計なお世話ではないか・・・??(学校で「教える」べきことなのか?) このような授業が、「普通」とされているとすれば、私はやはりもう日本に住めないのではないか?(笑) NYには家族・親戚がまったくいないので、寂しいと思うことも多い。 でもその反面、良くも悪くも、誰にもプライベートを詮索されず、お節介なアドバイスもされず、世間体をほとんど気にすることもなく、放っておかれるこのカルチャーが、既に心地よくなってしまっているのを感じる。ひんやりとした石の上に横たわるときの、冷たいながらもどこか落ち着くあの感触のように・・・。
by oktak
| 2009-02-03 07:42
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