2002年に、ウォールストリート・ジャーナルの記者、ダニエル・パールがパキスタンでイスラム過激派に拉致・殺害されるという事件が起きた。この事件の発生から悲劇的な終末までを、妻マリアンヌを中心として描いたドキュメンタリー的映画、"A Mighty Heart"が今日封切られたので、見てきた。主役マリアンヌを演じるのは、アンジェリーナ・ジョリー。
マリアンヌが書いた同名の本は読んでいないが、彼女、相当な人物である。 夫が殺害された直後のインタビューで、「パキスタンについてどう思うか?」と聞かれて、「今月、夫を含めて10人の人が(イスラム過激派によって)殺害されている。残り9人はパキスタン人だった。パキスタンの人々も、私と同じように苦しんでいる」と答えた。 そしてさらに、「テロリストの狙いは、私たちを恐怖に陥れること。だけど私は恐怖に屈しない」とも言っている。 気が狂いそうな状況の中で、嫌悪と恐怖に支配されることなく、冷静さを失わず、真理を正視する。常人には考えられない強靭な魂。まさに、"mighty heart"なのだ。(マリアンヌは、ダニエルの精神を"mighty heart"と称えているのだが。) 映画は、淡々と事件の展開を描いていく。カラチの街中の映像からは、暑苦しさ、音、臭いが生々しく伝わってくる。街の圧迫感が、登場人物の焦燥感や、わらにもすがる思いで進行していく捜査と時間との戦いと重なって、全体を通して、胸の上に重石を載せられたような重圧を感じる。 事実のみを再現しているから、拉致された後のダニエル・パールの映像はない。あるのは、彼を救うために必死に努力する側の、息詰まるような日々の記録。 新聞記事やテレビニュースを追っているだけでは、見えてこないディテールたち。実はこうしたディテールこそが、重要だったりする。 高校生の頃、著名なコラムニスト、Bob Greeneのエッセイ集"Cheeseburgers"を読んで、ひどく感銘を受けた。この映画を見て、彼の視点を思い出した。 悲惨な事件が起きると、大々的に報道され、世間は驚愕したり、嘆いたり、呆れたりするが、そうした事件が起きた後の当事者らの生活 - 1年後、5年後、10年後 -が報道されることはほとんどない。悲惨であればあるほど、世間も記憶から抹殺したいという無意識の思いがあるのかもしれない。でも、本当の戦いは、「その後」も無慈悲に続く日常ではないか?愛する者を理不尽な暴力によって奪われた後の、生の継続ではないか? その真の戦いの中に、人間の最強かつ最善の部分が現れるのだと思った。 マリアンヌは、事件当時妊娠していた男の子をその後無事出産し、今もジャーナリストとして活躍している。ダニエルの両親は、ジャーナリズムや音楽を通して、異文化間のコミュニケーションを推進するために、ダニエル・パール基金を設立した。
by oktak
| 2007-06-23 06:35
| 映画
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