昨日のNY Timesのop-ed欄に、デザイナーの三宅一生氏の投稿が載っていた。
私はまったく知らなかった(そしてそれは三宅氏の意図的操作によるものだった)が、彼は7歳のときに広島で被爆し、わずか3年後に母親を亡くしている。投稿の主旨は、8月6日の「平和の日」に、オバマ大統領に是非広島を訪れてほしいということであった。 60余年前の光景を鮮明に覚えている彼は、その体験を心の奥深くに仕舞い込み、これまで決してそれについて語ることなく、破壊の対極にある創造の世界で生きることを意識的に選んだのだという。「明るく、楽観的な」ファッションという媒体を通して、美と喜びを追求することに惹かれたのだと。 そして、オバマ大統領の広島来訪を希望するのは、「過去に執着するのではなく、米国の大統領に、核戦争のない未来を築くのだという意志を表明してほしいからだ」と述べている。 短い文章の中に、三宅氏の切実な願いが現れていた。 「過去に執着するのではなく」(not to dwell on the past)という下りは、被害者の立場でなければ書けず、この点に反発を覚えるアメリカ人は多数いるはずだと心配もしたが(アメリカ国民の過半数は原爆投下を正当化しているため)、本当にオバマが広島を訪れたら素晴らしいことだなと思った。現実には難しいだろうが、彼がイサム・ノグチ設計の平和大橋を渡る図を、一部のアメリカ人が想像しただけでも意味があるのではないか。 私が感動したのは、彼の作品の造形美の裏に、底知れぬ悲しみと、創造への決意があったという点。 二度と彼の作品を同じ目では見られないだろう。
by oktak
| 2009-07-16 08:10
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